タクシー保険の基礎と労災・安全装備まで徹底解説

最終更新日:2025年09月08日

タクシー 保険

タクシー運転手は長時間の運転と乗客対応ゆえに、事故やトラブルへの備えが欠かせません。本記事では「タクシー保険」を中心に、自賠責と任意保険(共済含む)の役割、国の定める加入基準、労災の給付、事故時の実務、そして安全装備の義務化状況まで、全国の現職・転職希望者に向けて網羅的に解説します。要点ごとに一次情報の出典を明記し、安心材料とチェック観点を整理しました。

タクシー運転手に必要な保険の全体像

タクシー業務では自賠責(強制)と任意保険または共済が基本セットとなります。国土交通省は、旅客自動車運送事業者(タクシー事業者)が備えるべき賠償措置の具体基準(いわゆる「告示503号」)を示しており、対人8,000万円以上、対物200万円以上、対物免責30万円以下などが明文化されています。任意保険または共済のいずれかでこれらの条件を充足する必要があります。

一方、自賠責保険は被害者の人身損害を最低限カバーする制度です。死亡3,000万円・傷害120万円・後遺障害(等級に応じ最高4,000万円)などの支払限度額が国交省のページで明確に示されています(※1)。物損は対象外のため、任意保険(または共済)で上乗せするのが前提となります。

タクシー運転手が理解しておくべき保険の基本構造は以下の通りです。

・自賠責:人身の最低限(物損は対象外)(※1)

・任意保険/共済:高額賠償・物損・各種特約で実務的な防波堤の役割

・労災保険:運転手本人の業務災害補償

・会社の団体保険:福利厚生として提供される任意加入の保険

この基本セットにより、タクシー運転手は乗客や第三者に対する賠償責任、自身のケガや病気への備え、さらには家族の生活保障まで一定の安心を得ることができます。ただし、これらの保険制度を効果的に活用するには、それぞれの役割と限界を正しく理解しておくことが重要です。

自賠責と任意保険(共済)の違いと補完関係

自賠責は被害者の人身救済が目的で、限度額までの基礎補償を支払います(死亡3,000万円、傷害120万円等)。その超過分や物損、運転者本人の補償などは任意保険/共済で対応することになります。国交省の自賠責ページは死亡時の内訳(葬儀費・逸失利益・慰謝料)と限度額の根拠も整理しており、実務理解に役立ちます(※1)。

タクシー事業者が満たすべき任意保険(または共済)の最低条件は、告示503号に条文として記載されています。対人8,000万円以上、対物200万円以上、期間中支払額の制限なし、対物免責30万円以下などです。任意保険・共済のどちらでもこれらを満たせば法令要件をクリアできます。

実際の事故対応では、この二つの保険が連携して機能します。例えば、タクシーが歩行者をはねてしまった場合を考えてみましょう。被害者の治療費や慰謝料がまず自賠責保険から支払われ、それを超える部分について任意保険の対人賠償が適用されます。一方、事故で破損したガードレールや建物の修理費用は、任意保険の対物賠償から支払われることになります。

ここで押さえておきたいポイントは以下の通りです。

・物損や高額賠償は任意保険(共済)で吸収される

・タクシー事業者の保険基準は「告示503号」が一次情報の拠り所となる

・自賠責だけでは不十分で、必ず任意保険または共済への加入が必要

・共済は非営利組織のため保険料が割安だが、示談交渉力に差がある場合も

タクシー共済と一般の任意保険には、それぞれメリット・デメリットがあります。共済は相互扶助の精神に基づく非営利組織のため保険料が割安である一方、示談交渉ではタクシー側の主張を強く打ち出す傾向があると指摘されています。被害者への賠償金提示が民間保険会社より低額だったり、増額交渉に応じにくいケースもあるようです。

ただし、共済にはタクシードライバーの立場に立った交渉をしてくれる利点もあります。事故対応に長けた元運転手がスタッフに多いことから、業界特有の事情を理解したスムーズな解決が期待できる場合もあります。

会社の団体保険・共済と公的労災(運転者自身の補償)

雇用ドライバーは業務中・通勤途上の負傷に労災保険が適用され、休業4日目以降「給付基礎日額の80%」(60%給付+20%特別支給金)が支給されます。厚生労働省は計算式まで公開しており、金額イメージを把握できます(※2)。

労災保険の給付内容は非常に充実しています。業務上の災害と認定されれば、治療費は全額労災負担で自己負担なしで治療を受けられます。また仕事を休んだ場合は、休業4日目以降について平均賃金の80%が休業補償給付として支払われます。休業初日から3日目までは会社から60%の休業手当が支給されることになっています。

さらに、後遺障害が残れば障害等級に応じた一時金または年金が支給され、万一死亡した場合は遺族補償年金や葬祭料も給付されます。このように労災保険は運転手本人の怪我や生活補償を幅広くサポートする制度となっています。

また、労働局は自賠責と労災の先行関係にも言及し、自賠責の上限(死亡3,000万円・傷害120万円・後遺障害最高4,000万円)を一次情報として示しつつ、どちらを先に使うかは被災者側で選べる旨を案内しています(※3)。

会社によっては、法定の労災保険に加えて独自の福利厚生制度を設けているところもあります。

・会社の福利厚生として団体の生命・傷害保険を案内する事業者あり(任意加入)

・保険料の団体割引により、個人契約より安価で加入可能

・給与天引きで支払いができるため手続きが簡便

・家族の保障も含めて検討できる場合が多い

このように、本人の治療・休業は公的労災が土台となり、自賠責は被害者救済の土台、さらに任意保険(共済)特約で上乗せという三層構造が形成されています(※2)(※1)。

労災保険の申請手続きについても理解しておきましょう。労災保険の給付を受けるには所定の労働基準監督署への申請が必要ですが、タクシー会社に雇用されていれば通常は会社の総務部門が手続きを案内してくれます。重要なのは、事故が起きたらためらわず会社に報告し、労災申請をすることです。

特に交通事故では相手の自動車保険との兼ね合いで労災と自動車保険のどちらを先に使うか選択できますが、運転手本人の補償に関しては労災を使った方が過失割合に関係なく確実に補償が受け取れる利点があります。会社によっては事故後の労災申請手順までマニュアル化されているので、不明点は上司に確認し適切に手続きを進めましょう。

事故時の初動と保険適用の考え方(実務フロー)

事故が発生した際の対応手順を理解しておくことは、タクシー運転手にとって極めて重要です。適切な初動対応により、その後の保険手続きがスムーズに進み、関係者全員の負担を軽減できます。

基本的な事故対応の流れは以下の通りです。

・救護と通報(119/110) ・会社へ報告 ・保険会社(または共済)連絡 ・必要書類・証明の確保

まず最優先すべきは負傷者の救護です。乗客や相手など事故の関係者にケガ人がいないか確認し、重傷者がいれば迷わず119番通報して救急車を呼びます。自分自身も負傷している場合は無理をせず応急措置を行ってください。

次に警察への連絡です。物損だけの軽微な事故でも、基本的には速やかに110番通報して警察を呼びましょう。特に人身事故になり得る場合や交通の妨げになっている場合は道路交通法で警察への報告が義務づけられます。現場検証と事故証明書の作成に協力します。

会社への報告も忘れてはいけません。自分が所属するタクシー会社に連絡し、事故の状況を報告します。会社の指示に従い、必要であれば所定の事故報告書を提出します。会社には専門の事故処理担当者がいる場合も多く、今後の対応についてサポートを受けられます。

最後に保険会社への連絡です。物的損壊があり保険を使う場合は、契約している保険会社または共済にも事故発生の連絡をします。事故の詳細を説明し、保険金請求の手続きを開始しましょう。修理に保険を適用する際は保険会社の承認(許可)が必要になるため、勝手に修理業者へ出す前に連絡が必須です。

保険適用の基本的な考え方は以下の通りです。人身は自賠責から、超過分は任意保険(共済)でカバーされます。物損は任意保険(共済)の対物で対応し、運転者本人の怪我は労災と任意の人身傷害・傷害保険で補完するのが基本線です。上限や給付率等は国交省(自賠責)と厚労省(労災)の一次情報で担保されます(※1)(※2)。

事故直後は動揺しがちですが、落ち着いて順序立てて対応することが大切です。特に重要なのは、現場の状況を正確に記録しておくことです。可能であれば写真撮影や目撃者の連絡先確保なども行いましょう。これらの情報は後の保険手続きや示談交渉で重要な証拠となります。

法的責任の所在(被害者賠償は誰が負うか)

タクシー事故における法的責任の所在について理解しておくことは、運転手にとって安心材料となります。被害者保護の観点から、運行供用者(保有者)責任を定める自賠法の枠組みがあり、業務中の賠償対応は事業者の保険で処理されるのが実務です。条文の詳細はe-Govで閲覧可能です(※4)。

加えて、雇用関係に基づく使用者責任(民法715条)の一般原則もあります。これらの法的枠組みにより、運転手が業務中に他人に与えた損害は、原則として事業主であるタクシー会社が賠償する義務を負うことになります。

したがって、被害者への賠償は会社加入の保険で行われ、通常運転手個人が多額の賠償請求を直接背負うことはありません。これは運転手にとって大きな安心材料と言えるでしょう。

ただし、これは法律上の責任区分であり、社内規定としてのペナルティは別問題です。タクシー会社によっては「乗務員に対する罰則規定」を設けており、事故を起こした運転手に一定の負担を求めるケースがあります。

具体的には以下のようなペナルティが課される場合があります。

・事故の内容に応じた社内評価の減点

・賞与の減額

・修理代の一部自己負担

・有給休暇の減少

・無事故手当の支給停止

ただし近年は人手不足も背景に、運転手に過度な負担を強いる会社は減りつつあります。実際の例として、東京都内のあるタクシー会社では「万一の事故でも乗務員本人の負担金なし」と求人条件に明記しつつ、無事故手当(皆勤的な安全運転奨励金)が事故月から支給停止になるだけという運用をしています。

つまり直接の修理代等は会社負担だが、事故を起こすと毎月支給される無事故手当がもらえなくなるというものです。これなら乗務員が高額な借金を負う心配はありませんが、収入面で多少のペナルティとなります。

転職を検討する際は、事故時の会社の補償体制(乗務員負担の有無)を事前に確認しておくことが大切です。理想的なのは「事故時本人負担ゼロ」を掲げ、安全教育にも力を入れている会社と言えるでしょう。

安全装備・安全運転支援の最新動向(義務化・推奨)

近年は先進安全装備の義務化が段階的に進み、タクシー車両の安全性も底上げされています。国土交通省の方針により、新車を中心に様々な安全装備の搭載が義務付けられており、既存車両についても段階的な装備が推奨されています。

主要な安全装備とその義務化状況を整理すると以下の通りです。

・衝突被害軽減ブレーキ(AEB):国土交通省は新車を対象に義務付けを開始(国連規則R152導入)。導入と適用時期は公式リリースで示されています(※5)

・後退時車両直後確認装置(バックカメラ等):装着義務化が告示改正で示され、バックカメラ・検知システム・ミラー等いずれかの装置で直後視界確保が必要になりました(※6)

・運転者の適性診断(NASVA):事業用(バス・ハイヤー・タクシー等)運転者向けに、運転特性を測定し指導へつなげる仕組みが提供されています。年間約46万人が利用しています(※7)

・運輸安全マネジメント:ハイヤー・タクシー事業者のうち一定規模以上は安全管理規程の届出等が義務化されています。対象拡大の周知も行われています(※8)

衝突被害軽減ブレーキ(AEB)は前方の車両や歩行者を検知し、衝突の危険があると自動的に強いブレーキをかけて被害を軽減する装置です。2021年以降に発売される新型乗用車には搭載が義務付けられ、タクシー車両でも新車は基本的にすべて標準装備しています。

トヨタが開発した次世代タクシー車両「JPN TAXI」は衝突被害軽減ブレーキやペダル踏み間違い時加速抑制装置など先進安全システムを標準搭載しており、全国で約2万8,000台(法人タクシー全体の約15.78%)が導入済みです(令和4年2月末現在)(※10)。特に東京では約3万台中1万6千台超がJPN TAXIに置き換わり、半数以上が先進安全車両となっています。

ペダル踏み間違い防止装置も重要な安全装備の一つです。アクセルとブレーキの踏み間違いによる急発進を防ぐ装置で、高齢ドライバーの事故防止策として国が後付け装置の開発・普及を推進しており、2022年7月からは新車時の義務装備にも加わりました(対歩行者の急発進抑制装置)。

車両後方視界カメラ(バックカメラ)については、車を後退させる際に後方の映像を映し出し、死角にいる歩行者や障害物を視認できる装置です。こちらも2022年以降、新車への搭載が義務化されました。タクシーでは狭い路地での転回や駐車場からの出庫時に事故防止に役立ちます。

ドライブレコーダー(車載カメラ)も普及が進んでいます。運転中の映像や音声を記録する装置で、事故時の状況把握やトラブルの証拠保全に有効です。タクシーでは防犯目的も兼ねて車内外を撮影するドライブレコーダーを設置する動きが広がっています。法令上は2025年時点でタクシーへの搭載義務はありませんが、国土交通省もドラレコ映像が安全運行意識の啓発に役立つとしてその活用を強く推奨しています。

まとめ(安全装備)

AEBや後退時直後確認装置の義務化は一次情報で確認でき、車両更新や仕様確認時のチェック項目となります(※5)。これらの安全装備は事故防止に大きな効果が期待されており、タクシー業界全体の安全性向上に寄与しています。

安全運転支援車両(サポカー)への更新や安全装備の後付けに対しては、国や地方自治体から補助金が出る場合もあります。タクシードライバーとしては、こうした最新装備の恩恵を受けつつも「安全運転の基本はあくまで自分自身」であることを忘れず、機械に過信せず慎重な運転を心掛けることが重要です。

保険料の相場感と負担の考え方

タクシーの保険料は一般の自家用車に比べ高額になる傾向があります。走行距離や乗客の有無などリスク要因が大きいためで、任意保険料は年間数十万円規模に及ぶことも珍しくありません。実際、「法人タクシーでは1台あたり年額約40万円、個人タクシーで約25万円」という具体的な試算例もあります。

ただし、任意保険(または共済)の保険料は事業者のフリート契約や共済の非営利性でコスト最適化を図るのが一般的です。相場は地域・台数・事故実績で変動しますが、重要なのは法定の下限を満たすだけでなく、無制限等の十分な補償を確保し、免責や自己負担ルール(社内規定)を明確にすることです。ここは求人票・面接や就業規則で要確認です。最低水準と免責上限は告示503号の要件が目安となります。

もっとも乗務員個人がこの全額を負担するわけではなく、基本的に会社が車両ごとに保険料を負担します。タクシー会社は事業用自動車向けにフリート契約(車両一括契約)を結んでおり、保険料も会社が一括で支払います。そのため所属ドライバーは直接保険料を支払う必要はありません。

個人タクシーの場合は自分で任意保険料を支払いますが、タクシー協会の共済に加入すれば団体割引が効くため、一般の営業車保険より安くなることが多いようです。

事故を起こした場合、翌年以降の保険料への影響も気になるところです。一般の保険と同様、事故により等級(ノンフリート等級制度)が下がれば翌年度の保険料は上がります。ただタクシー共済から民間保険に切り替える際などは等級の引き継ぎができない場合もあり注意が必要です。

運転手個人にペナルティが及ぶ形では、前述の無事故手当がしばらく支給されなくなったり、一定期間賞与が減額される程度で済むケースが多く、高額な保険料を自腹で払わされる心配は基本的にありません。

一方で、保険適用外の損害や免責金額部分については会社から運転手へ請求される可能性があります。例えば「物損事故で修理代◯万円までは運転手負担」などの内規がある会社では、小さな物損でも複数回起こすと運転手の累計負担がばかにならない金額になることも考えられます。

理想的な会社は「事故の物的損害は全額会社負担」と明示しているところです。転職活動時には求人票や会社説明でその点を確認し、自分にとって安心して働ける環境か見極めましょう。

保険加入の流れと注意点(就職・独立)

タクシー業界で保険に加入する際の流れは、雇用ドライバーと個人タクシーで大きく異なります。それぞれの特徴と注意点を理解しておきましょう。

雇用ドライバーの場合、会社の契約枠(任意保険/共済)で保険適用されるのが通常です。初出庫までに適用状態を整えるのが実務で、必要な最低条件は告示503号に適合しているかを会社側が担保します。

具体的な手続きの流れは以下の通りです。

・タクシー会社に就職した場合、営業所で入社手続き時に任意保険(または共済)の加入書類に記入

・会社がすでに契約している保険の枠にドライバー個人を追加する形で対応

・初出庫前に必ず保険適用される状態を整える

・自家用から営業用への車両登録変更(緑ナンバー取得)の際にも、任意保険の加入証明が必要

個人タクシーの場合は、協会・組合経由の共済や、事業用自動車向け任意保険のいずれかで、告示要件を満たすプランに加入する必要があります。営業許可・緑ナンバー取得の手続き過程でも保険計画の提示が求められます。関係法令は国交省「タクシー事業について」参照してください(※9)。

個人タクシーの保険加入手続きは以下のような流れになります。

・開業前に協会ルートで共済に加入するか、自分で事業用自動車保険に申し込む

・営業許可申請時に保険加入計画を示す必要がある

・開業準備段階で早めに保険手配を進める

・協会や協同組合に加盟していれば団体共済を通じて任意保険相当の補償を確保可能

重要な注意点

保険加入時に特に注意すべきポイントをまとめます。

・使用目的は「営業用(事業用)」で申告することが必須です。個人向け自動車保険のままでは給付対象外となる恐れがあります

・自賠責の限度額(死亡3,000万円・傷害120万円等)と労災80%の仕組みを理解し、任意保険の人身傷害・弁護士費用特約等で不測のリスクに備えることが重要です(※1)(※2)

・乗務員には保険契約の証として保険証券または保険加入証明書が配布されます(共済の場合は共済契約証書)

・自賠責保険の証明書(自賠責証明書)は車検証とともに車内備え付けが義務です

・乗務の際はこれらが車載されているか確認し、不測の事態に備える

実際に事故が起きた場合、まず会社と保険会社に報告しますが、保険を使うかどうかの判断は会社と相談になります。軽微な物損事故で修理代が少額な場合、保険を使わず会社負担で処理し、等級ダウンによる翌年保険料上昇を避けることもあります。反対に人身事故では迷わず保険対応とし、被害者補償に万全を期します。

運転手は勝手な自己判断をせず、会社の指示に従って手続きを進めることが重要です。タクシー乗務を始めるにあたり、「保険に入っているから安心」と慢心しないことが何より大切です。保険は事故後の経済的支えにはなりますが、事故そのものを防ぐことはできません。

賠償責任は会社が負うとはいえ、事故を起こせばお客様や関係者に迷惑をかけ、自身も精神的・身体的な負担を負います。安全運転第一で勤務し、保険はあくまで最後の拠り所と心得ましょう。

転職希望者のチェックリスト(保険・安全対策)

タクシー業界への転職を考えている方は、給与や勤務形態だけでなく会社の保険・安全対策にも注目する必要があります。以下にチェックすべきポイントをレベル別にまとめました。

最低ライン(法令適合)

まず確認すべきは、法令で定められた最低基準を満たしているかどうかです。

・任意保険/共済が告示503号の水準(対人8,000万円以上・対物200万円以上・対物免責30万円以下等)を満たしているか

・法令上はどの会社も任意保険or共済に加入していますが、補償内容(対人・対物の上限額)や保険会社(共済組合)の信頼性は要チェック

・国土交通省基準を満たしているか、対人対物とも無制限契約か、共済の場合は実績豊富かなどを調べる

・求人情報に「事故時の補償は万全」など記載がある会社は安心材料になる

上乗せ・運用面での充実度

法的最低基準を超えた手厚い補償が用意されているかも重要なポイントです。

・対人・対物の無制限、人身傷害や弁護士費用、代車・休業損害対応など実務的な特約の有無

・事故時の自己負担ルール(免責・弁済・無事故手当の扱い)を明文化しているか

・会社によって、事故を起こした際の乗務員へのペナルティは様々です。「本人負担ゼロ」とうたっている会社は理想的ですが、中には修理代一部負担や無事故手当カットといったルールがあるところもあります

・事前に面接や公式サイトで確認し、不明な場合は質問してみましょう。「万一の事故でも会社がしっかりサポート」と明言する企業はドライバー思いと言えます

・弁護士費用特約や代車費用特約など、いざという時に役立つ特約が充実しているかも確認ポイントです

安全投資への取り組み

会社の安全への投資姿勢は、働く環境の安全性を測る重要な指標です。

・AEBや後退時直後確認装置の装備状況、ドラレコ等の運用、車両更新ポリシー(※5)

・NASVA適性診断・安全教育の運用実績(入社時・定期・高齢者向け等)(※7)

・車両の安全装備が充実している会社は、事故防止への意識が高いです。具体的には車両の新しさ(JPN TAXIやセーフティサポートカーの導入率)、ドライブレコーダーや車内防犯カメラの設置などをチェックしましょう

・全車両にドラレコ搭載済みの会社や半数以上が衝突被害軽減ブレーキ付き車両という会社もあります。説明会で質問すれば教えてもらえます

・新人研修の充実度や定期的な安全講習の有無も注目ポイントです。大手は研修制度が整っており、未経験でもプロドライバーとして成長できる環境があります

・事故歴が心配な方も、フォローアップ研修があれば安心です。「事故防止委員会を設置」「安全指導専門スタッフ在籍」など安全への取り組みをPRしている会社は信頼できます

運転者自身の保障制度

労災の申請支援や休業時の社内補完(上乗せ補償・団体保険案内など)の有無を確認しましょう(※2)。

・乗務員が事故で負傷した場合の労災手続きサポートや、団体保険の加入案内など福利厚生面も確認しましょう

・労災補償は法律で決まっていますが、手続きを会社が親身に手伝ってくれるかは企業文化によります

・社員の健康や安心を大切にする社風の会社は、面倒な労災請求もしっかりサポートしてくれるはずです

・会社独自の上乗せ補償や団体保険制度が充実している場合は、より安心して働ける環境と言えるでしょう

これらを総合的にチェックすることで、「安全に長く働けるタクシー会社か」見極める助けになります。特に未経験から飛び込む方は、保険や安全対策が整った会社を選ぶことで余計な不安を減らし、本業の接客・運行に専念できるでしょう。

セクションごとの要点まとめ

ここまでの内容を振り返り、タクシー保険制度の要点を整理します。

・保険の土台:自賠責は人身の最低限、任意保険/共済で実務補完(物損・超過分等)(※1)

・法定要件:対人8,000万円以上・対物200万円以上・対物免責30万円以下等は告示503号で明記

・労災:休業4日目以降は給付基礎日額の80%(60%+20%)(※2)

・安全装備:AEBと後退時直後確認装置は義務化フェーズ進行中(※5)

・チェック観点:法令適合+上乗せ特約+安全投資+労災運用で安心して働ける会社か見極め

タクシー保険制度は複雑に見えますが、基本的な仕組みを理解すれば決して難しいものではありません。自賠責保険と任意保険(または共済)の二階建て構造で被害者への賠償をカバーし、労災保険で運転手本人の補償を確保するという基本構造になっています。

重要なのは、これらの保険制度を正しく理解し、適切に活用することです。そのためには、転職時に会社の保険・安全対策をしっかりとチェックし、安心して働ける環境を選ぶことが重要です。

事故リスクと隣り合わせのタクシー運転手にとって、保険と安全対策はまさに命綱です。自賠責・任意保険から労災までフル活用し、最新の安全装備と日々の安全運転でリスクを最小化することがプロドライバーの務めと言えます。

まとめ

タクシー保険制度は、運転手の安全と安心を支える重要な仕組みです。自賠責保険による最低限の人身補償から始まり、任意保険や共済による手厚い上乗せ補償、さらに労災保険による運転手本人の保障まで、多層的な安全網が構築されています。

国土交通省が定める告示503号により、タクシー事業者には一定水準以上の保険加入が義務付けられており、これにより乗客や第三者への賠償責任は適切に担保されています。また、先進安全装備の義務化も段階的に進んでおり、業界全体の安全性向上が図られています。

転職を検討される方にとって重要なのは、単に給与や勤務条件だけでなく、保険・安全対策が充実した会社を選ぶことです。事故時の自己負担ルールや労災申請のサポート体制、車両の安全装備状況などを総合的に判断し、安心して長く働ける環境を見極めることが大切です。

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参考URL

※1出典: 国土交通省「自賠責保険・共済の限度額と補償内容」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jibaiseki/about/payment/index.html ※2出典: 厚生労働省「労災の休業(補償)等給付」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000154476.html ※3出典: 都道府県労働局「自賠責と労災の先行関係」 https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-roudoukyoku/hourei_seido_tetsuzuki/rousai_hoken/hourei_seido/tyui.html ※4出典: e-Gov法令検索「自動車損害賠償保障法」 https://laws.e-gov.go.jp/ ※5出典: 国土交通省「AEB義務付けに関する告示改正」 https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha08_hh_003618.html ※6出典: 国土交通省「後退時直後確認装置の装着義務化」 https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha10_hh_000252.html ※7出典: NASVA「運転者適性診断の概要」 https://www.nasva.go.jp/fusegu/tekiseigaiyou.html ※8出典: 国土交通省交通局「運輸安全マネジメント」 https://wwwtb.mlit.go.jp/hokkaido/bunyabetsu/anzen_bousai/management/jidousya/index.html ※9出典: 国土交通省「タクシー事業について」 https://www.mlit.go.jp/jidosha/jidosha_tk3_000003.html ※10出典: 厚生労働省「タクシー運転者の労働時間等の改善のための基準」 https://driver-roudou-jikan.mhlw.go.jp/pdf/taxi/TaxiTodayJapan2022.pdf